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山本哲郎コラム「脱ハンコ」がもたらすものは?

先日、河野太郎行政改革大臣が全府省に行政手続きでハンコを使用しないように要請しました。
それに同調する意見も多く、民間でもこれから印鑑押印を廃止する方向で動く気配が感じられます。
そもそも日本では印鑑を押すことが当たり前のように行われていますが、現在諸外国では印鑑を押すということはほとんどなく、“サイン”によっています。台湾、韓国や中国の一部では押印文化があるようですが、それは日本が統治していた当時の名残りとも言われています。

“サイン”は自身が書くものなので、他人が簡単に真似できるものではありませんが、印鑑押印は印鑑を持ってさえいれば誰が押しても印影は変わらないし、“認め印”は誰でもが簡単に買うことができますから、押印による“証明力”は決して高くないものと思われます。
以前、ある会社に行ったら女子社員が部長の代わりに“部長印”を伝票に押印しているのを目の当たりにしたことがあります。
これでは確かにハンコを押す意味はないですよね。

ところで会社などでハンコを押すのは、大きく分けて二通りの場合があります。

一つは契約書など、交わした約束を証するために押す場合です。
行政書類としての届出書などもこれに該当します。

もう一つは会社内部での権限委譲にあたり、委譲された行為を委譲した者が承認するという場合です。稟議書などがこれに該当します。

前者の場合の脱ハンコは、印鑑押印に変えて諸外国並に“サイン”にするかどうかの問題なのでしょう。
もちろん役所などでの申請書のようなもので、印鑑を押す必要性がないと思われるものも多くあり、脱ハンコにより省力化が図れるものもあるでしょうが、基本的には約束を交わした証明であったり、本人が届出をするものについては“本人の意思であること”を明確にするため、押印またはサインが必要であると思います。

それに対して後者の“承認機能”としての押印は、ハンコを押すか否かというよりも、“そもそもその承認が必要なのか?”を考える必要があるのではないでしょうか。
会社によっては1つの承認事項に10個以上のハンコが押されている(10人以上が承認している)なんていうこともあるのです。本当にそれだけの人が承認する必要があるのだろうか、疑問に思います。
「脱ハンコ」の本質が「無駄の排除」なのだとすると、押印自体の廃止の問題ではなく、承認システムの簡素化を考えるべきなのではないでしょうか。

また、今回の「脱ハンコ」は、“テレワークを推進している中、印鑑を押すために会社に出て来ざるをえなかった”という反省から、その導入が歓迎されている向きもあるようです。
ハンコを廃止して、それに代わるものとして電子承認にすれば、自宅でも事が済むというのです。
確かに一枚の紙切れを順次承認者に回していたら、テレワークは進まないし、
そもそも時間がかかります。
それを電子的に承認する仕組みにしたら、かなり合理化が図れることでしょう。
しかし、そもそもの承認すべき人の見直しも重要なのです。
だって、実際には多くの場合「めくら判」なのでしょうから。

今回の河野大臣が推進する「脱ハンコ」も、紙ベースでの印鑑押印を止め、デジタル化を推進する布石として行おうとしているのだと思われます。
役所の押印文化は、煩雑で無意味としか思えないものも多くあり、デジタル化の推進は歓迎すべきことです。
役所への申請や届出が自宅のパソコンからできるようになる。そんな時代も間近に来ているのでしょう。

ところで私どもが扱っている「税務申告書」は、数年前から電子申告が当たり前になっています。
昔は申告書に代表者が署名押印をして提出していたのですが、電子申告ではハンコに代わり、デジタル署名によります。

しかし、このデジタル署名の考え方は日本と米国などではかなり違うようです。
もうだいぶ前のことなので現在は変わっているかもしれませんが、以前私が米国に視察に行ったときは、米国では“電子申告により提出したものが、自分自身が出したものであることを自分自身が確認できればよい”ということで、“税務当局はデータを受け入れるだけでそれを誰が発信したかは問わない”という考えでした。だからパスワードなどは届け出る必要もなく、とても簡素でした。
それに対して日本では、事前に登録したIDとパスワードが必要で、本人が発信したことを受信者が知るためにマイナンバーカードなどが必要となるのです。

同じデジタル署名でも、考え方が大きく違いますね。
これも役所的印鑑文化のなす結果なのかもしれません。
そういう意味では、現在進められているような形式的「脱ハンコ」が本当に合理化につながるのか、ちょっと不安が残ります。

皆様はいかが考えますでしょうか。

山本哲郎

 

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